モンシロチョウ

※写真集「愛の輪郭」2022 掲載写真

モンシロチョウのメスの翅って紫外線を強く反射するらしく、オスはその強い反射を頼りに雌雄を見分け、交尾する相手を探してるって話を子どもの頃聞いたことがあったんですけど、当時の相澤少年、昆虫とか大好きだったものですから、すぐに実験してみたんですよ。聞いた通りに白い紙をモンシロチョウの翅の形に切って、それに日焼け止めクリームを塗って、黒い点を描いて。それを花壇近くで棒を釣竿のようにして吊るしてみたら、案の定オスが数匹、わりとすぐに飛んできて、その紙切れをメスだと思ってぱたぱた周りを飛び回ってる。

なんかね、その仕掛け作るのがとても簡単だったこともあり、こんなので本当にモンシロチョウが来るんだろうかって半信半疑の状態で実験に臨んだものですから、子供心に、「おいおい簡単やな、おまえはこんなんでいいんか」と思いながら、紙切れをメスだと勘違いしているオスのモンシロチョウに対して、なんかせつなく哀しい感じを心のどっかで思ったことを記憶してます。小学生ながらも昆虫における交尾の概念は大筋で理解してましたから。

その後思春期になってから、その時のモンシロチョウの実験を思い出すことがありました。ある日、巷に溢れるやや大人な写真たち、確か少年マンガ誌の水着グラビアかなにかだっと思うんですが、その肌色に対して無意識に反応する自分に気づいたんですよね。本を開くと同時にあっという間に引き込まれて夢中でページを送っていると、ある瞬間に、「あっ」って、紙切れに対して求愛していたオスのモンシロチョウと自分が重なってしまった。高精細とはいえ、肌色に見えるように調整されたインクの集まりにまんまと惹かれるその感覚は、そのまま本能的な反応で、あのときのモンシロチョウのオスと同じように「偽物のメス」に引き寄せられているだけじゃんよって思ったんです。日焼け止めの反射を目掛けてぱたぱたと飛んできたモンシロチョウのオスと、本の中の肌色のインクに対してぱたぱたしている自分がまるで同じ存在となってしまった。なんつったって人間もモンシロチョウも同じ紙に反応しているわけですからね、生身の女性じゃなく。

子供の頃目にした必死というか無邪気というか、まっすぐなオスの蝶の姿は、人間が日常的に感じる無意識の衝動と何ら変わらない。なんの本だったか覚えてないけど、以前読んだ本に「人間のなかにある、一目惚れのような恋愛感情などが瞬間的に発するしくみは、爬虫類のそれとあまり変わらない」というような内容が記してあったのを読んだことがあるんだけど、確かに客観的にみれば、人間も爬虫類も、そこを行動原理とした中で生きてるみたいなとこあるわけですからね。人間の場合は文化や社会通念や規範、それぞれの理性がそれらをそれなりに、なんとか覆い隠すことが出来ているに過ぎず、結局のところ私たちは常に無意識に、なにか得体の知れない、おそらくは普遍的なものにずっと抗えずに日々をつき動かされていく感じなんでしょうね。